BrandLand JAPAN

  • Relay Interview
  • March 15th, 2019

海外での商品販売に
結局大切なのは背景の「誰か」

 
Simply Native
松元 由紀乃さん

経済産業省の外郭団体である中小企業基盤整備機構を25歳の若さで退職し、合同会社Simply Nativeを設立した松元由紀乃さん。なぜ、安定した職を捨ててまで独立したのか。また、現場で奔走する中で見えてきた課題とは。日本と海外を結ぶ最前線から、リアルな声を聞いた。

大島紬の家業が継げず、
中小企業基盤整備機構に就職

オーストラリアのSimply Native Japanが2年、日本の合同会社Simply Nativeは立ち上げから1年半が経ちました。現在はシドニーを拠点にしており、日本での活動は年間の4分の1ほどです。 鹿児島県の奄美大島出身で、大島紬の製造を生業とする家に生まれました。小さい頃から着物作りをする両親や職人さんの姿を見て育ち、たくさん可愛がってもらって「私も大きくなったら家業を継ぐ!」と宣言していました。しかし、父が製造業から手を引くことになり「安定した職業に就きなさい」と諭されるように。 英語が好きで海外で仕事をしたいと思うようになり、国際基督教大学在学中はバックパックを背負って世界を見て回りました。その際、韓国や中国に押されて日本企業がプレゼンスを失いつつある現実を知り、焦りを感じたのです。そうした想いと、国がどう動いているのかも知りたかったので、中小企業の支援機関である中小企業基盤整備機構に就職しました。

地場産業支援にやりがいを見出し
超安定した職場を3年で退職

当時は「日本再興戦略」として「5年間で新たに1万社の海外展開を実現する」という政府スローガンのもと、日系企業の海外進出支援に国を挙げて促進していた時期。私も複数のプロジェクトに関わらせてもらう中で、地場産業に携わる全国のメーカーさんと出会いました。そこで従来の商流の縮小や後継者不足の問題を耳にし、実家で起きていたことが全国規模で起きているのだとわかったのです。それからは、全国にある地場産業のメーカーさんを支える仕事をやっていきたいと思うようになりました。 一度だけの人生だし、やるなら早いほうがいいと退職を決断。周囲からは「もったいない」と言われましたが、大変な道でもやりたいことをゼロから作っていくしんどさはがんばれると思いました。安定職を望んでいた父を悲しませてしまったのは、今でも申し訳ないと思っていますが…。

成長を続けるオーストラリアに
ビジネスチャンスを見出した

ビジネスの場に選んだのが、オーストラリアです。 学生時代に1年間メルボルンに住んでいた経験があり、日本への関心の高さに比べ工芸品や地場産業品などモノの供給が追いついていないことから、可能性が高いと感じました。 実際に、数字の面からも有望市場であることがわかります。オーストラリアは26年連続で経済成長をしている、世界で唯一の超安定国。現在の市場規模は日本の3分の1程度ですが、オーストラリア人の平均年収は約700万円と日本人の約1.6倍です。一人あたりの購買力も高いため、海外では価格が高いと言われがちな日本製品でも十分受け入れられる素地があります。また、人口は現在約2500万人ですが、2030年までに富裕層や知識層を移民として500万人増やす計画があり、今後も成長しつづけると予測されています。 前職では欧米やアジア各地の販路開拓を見てきましたが、それらの地域には大先輩がたくさんいらっしゃるので、私が後から分け入っても役に立たないだろうという想いもありました。 そこで私はオーストラリアに工芸を販売する新たな道を作ろうと思ったのです。

商材の流通を手がけるだけでなく
日本から作り手を招いたイベントも積極的に開催

作り手の見える地場産業の商品であれば、取扱商品は建築資材や商業用のテーブルウエア、インテリア雑貨と多岐に渡り、それぞれの流通に合わせて販路開拓を行なっています。 レストランやカフェの新規オープンの際に、建築資材からテーブルウエアまで総合的にお引き受けするケースも多いです。 建築市場は好調なので売上の7割は建築資材で、商業用のテーブルウェアとインテリア雑貨は半々くらいです。 インテリア雑貨は、従来の小売業が低調なのでデザインマーケットやクリスマスマーケットにブース出展し、直接一般のお客様に販売しています。以前は小売店への卸も行なっていましたが、欧米に比べて小売店のマージンが大きくリピートに繋がらないので、現在は積極的には行なっていません。 最近では、日本から作り手をお招きし、直接交流することで日本のモノや文化に理解を深めてもらうイベントを開催しています。作り手とのダイレクトなコミュニケーションという圧倒的な「体験」の提供です。昨年11月には大阪から陶芸家の和田山真央さんをお招きし、シドニーの若手有名日本人シェフとのコラボレーションイベントを、12月には島根県の石州瓦組合さんの瓦づくりワークショップを実施し、いずれもご好評いただきました。

Photo: Yusuke Oba, Restaurant: Jazushi

日本の取引先は信頼関係の下
人づてに拡大

取引先はご紹介いただくことが多いです。地域に信頼できる職人さんがいると、横のつながりで異業種の方々をご紹介していただきます。 現在お世話になっている方々は、80社くらいです。無理に数を増やしたいとは思っておらず、長期的な関係性を大切にしています。 制度や習慣の異なる海外で売上をあげるまでには、時間がかかります。いろんなところに潜んでいるトラブルを笑いとばして楽しめるタフさと大らかさが大事だと感じます。 信頼関係を築けるか、なるべく直接お会いし、お人柄に触れられる機会を持つようにと心がけています。

Photo: Kimiko Mikuni, Joidea

商品の魅力を伝えるには
作り手個人に脚光を当てるべき

海外で売れる製品やブランドを作るのも、人の力です。日本の製品に備わる付加価値を伝えていくと、最終的には「どのような人が作っているのか?」という話になります。少し前まで「ストーリーが大事」と言われていましたが、それが「人間」により焦点が当たっているような印象でしょうか。モノやサービスを通じて、購入者は製作者とつながりたいと欲しています。実際、製作者の人となりまで深く説明できると、クライアントと案件を成約できる確率が格段に高まります。 ブランディング戦略をさらに超え、製作者一個人を可視化するような販売手法が求められているように感じます。 ちなみに、オーストラリアは建国して約120年の若い国。日本には百年以上にわたって技術が継承される例は少なくありませんが、その話をすると非常に驚かれます。こちらの多くの人にとって仕事とは、自分のプライベートを楽しむために仕方なく従事するものという感覚なので、仕事に対するマインドセットが違うんです。残業は絶対しないので仕事が本当に早い。6時以降にオフィスに残ってるのは私と中国人スタッフだけです(笑)。日本の職人に対し、自分たちには絶対にできないとリスペクトする一方、工芸に関する情報が足りていないのでまったく理解できない人も多く、そうした場合にはモノづくりにかける日本人の精神性や美意識のような背景からお話させてもらっています。

いつか後継者となった職人の子供らと
一緒にお酒を飲み交わしたい

活動を始めて2年、当初はシドニーの自宅が仕事場でしたが、オフィスと倉庫を借り、定期便を出すまでに物量は増えています。建築資材のショールームの開設が当初からの目標ですが、建築デザイン事務所や飲食店は訪問営業が基本なので、家賃と人件費を考えてもあまり意味がないかなと考えて直しています。将来的には、オーストラリアで上質な工芸を見つけるなら「Simply Native」、という存在になりたいですね。急激な事業拡大は手に負えなくなるので目指していませんが、少しずつ乗り越えられる背伸びをしながら、息長くやっていきたいです。 もうひとつ、長期的な夢があります。20年後か30年後かわかりませんが、今お付き合いさせてもらっている職人さんたちの子供たちが成長して後継者となったときに、一緒にお酒を飲みに行きたいです。そこまで継続的なお付き合いができ、伝統技術の継承に少しでも貢献できたらステキですよね。 大きいビジョンを掲げるのも大事ですが、日常という小さな連続性のなかで、人と人との関係も大切にしていきたいですね。

Photo: Yusuke Oba

シドニー中心地の人気レストラン「Jazushi」で行なったイベントの集合写真。左から、Jazushi オーナー Yuki Ishikawa氏、Takahiro Teramotoシェフ(新規店舗開店準備中)、Bar H dininig ・Noburo Maruyamaシェフ、Lumi Bar&Dining・Hiroshi Manakaシェフ、和田山真央氏(陶芸家)、四季レストラン・Takumi Kawanoシェフ、Jazushi・Shota Satoシェフ、松元さん、Simply Native 遠山ゆりあ

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