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  • Relay Interview
  • Jan 19th, 2019

節句人形は幸せを
感じさせてくれる”人生必需品”

五色株式会社
原健二さん・原裕子さん
https://www.hara-koushu.com

1911年の創業以来、お節句のお祝いに大切なお人形や道具類を提供してきた人形師 原孝洲 (五色株式会社)。日本文化を保護・推進し、さらに伝統のものづくりを継承する立場として、今の現状をどのようにとらえているのか。文化の担い手としての率直な意見を、三代目人形師である原裕子さんと、その夫で代表取締役である健二さんに伺った。

住環境に合わせ省スペースで
設置できる節句の人形を開発

健二さん 現在、私たちの五色では、節句品の製造販売を主事業にしています。そのなかでもおよそ9割を占めるのが、桃の節句と端午の節句で飾られるお人形です。一昔前には製造が追いつかないほど盛況な時代もあったそうですが、私たちがこの仕事に携わり始めた十数年前から、市場は少子化による減少傾向が顕著でした。しかし、現代においても季節ごとの風習を大切にされる方は数多くいらっしゃり、そうした方々に向けて魅力的な製品やサービスを提供して参りたいと考えています。時代に合わせた商品開発も重要です。たとえばお節句のお雛飾りは、以前は大きな段飾りが主流でした。いまは住環境の変化もあり、省スペースで設置できるセット販売が増えています。設置スペースが小さくなったものの、かえって人形の品質を追求する傾向は強まっており、細部の表現までこだわり抜く私どもにとっては追い風になっています。

現代のインテリアにマッチした
デザイン性も求められている

裕子さん 住空間に合わせるという意味では、スペースだけでなくインテリア性も重要です。私自身インテリアが大好きで関連本を見漁っていますが、海外では洋風の室内に仏像やアジアの骨董品を上手に溶け込ませた表現は珍しくありません。お節句のお人形に備わる日本古来からの伝統を感じさせつつも、現代の住空間に自然となじみ、共生できる製品を作りたいと考えています。いくら季節のものでも、そのときだけ無理して飾るというのでは、やはり長く飾っていただけませんから。

革新的な挑戦の連続が
伝統として後世に受け継がれる

健二さん 「伝統」への接し方は、容易ではありません。伝統を守るには、過去に生まれたものをそのまま伝えるのではなく、現時点で何を作れば、この先の未来において「伝統」と呼ばれるのかを考えなければなりません。それは何なのか、いつも2人で話し合っています。ひとつの答えが、革新です。古き良きものを尊びつつ、時代に応じた革新も取り入れていく。それが、未来において「伝統」としてつながっていくのだと考え、試行錯誤を繰り返しています。インテリア性を考慮した製品開発というのも、この業界ではかなり革新的なことでした。これまでは作りたいものを作り、それをお買い求めいただくという作り手本位の製品がほとんどだったのです。あらゆる商品が飽和状態にあり、住空間や文化・風習に対する意識も変化した今、さまざまな価値を提案し、人形を飾る方々のライフスタイルを踏まえて喜んでいただけるものを生み出したいと考えています。

各家庭の幸せこそが
モチベーションになる

裕子さん この仕事で幸せに感じるのが、年末に赤ちゃん連れのお客様が大勢いらっしゃるときです。幸福感に包まれたお客様ばかりですし、店内が赤ちゃんの匂いに包まれて、幸せが充満するんですね。とても素敵な気持ちになれます。

健二さん 商売的には、時期を問わず年中そうした雰囲気だといいのですが(笑)。赤ちゃんの匂いや笑い声、泣き声であふれた空間にいると、本当に幸せになりますね。

裕子さん その幸せをシェアする意味で、2014年から『momo』という冊子を制作しはじめました。製品をお買い求めいただいた方からの写真と文章で構成しています。こういうふうに飾っていただいているのかと思うと各ご家庭の幸せの形が伝わってきて、毎年号泣です(笑)。節句のお人形は、ご両親やご家族がお子様に対する「生まれてきてありがとう」の気持ちを具現化したもの。私たちは、その愛情を伝えるお手伝いをさせていただいている立場です。これからも、一生懸命作らなきゃなと決意を新たにしています。

人形作りの魅力と日本文化の再認識が
人形師への道を拓いた

裕子さん 五色は私の祖父である原米洲が創業し、次に母・孝洲が二代目として受け継いで、私で三代目です。祖父や母が人形作りをしている背中を見て育ちましたが、実は家業承継を親から勧められたことはありませんでした。100年以上も続く歴史を思うと大変なことだと感じますが、それが当たり前の世界で暮らしてきましたので、むしろ大人になれば人形作り以外の仕事に就くものと考えていたくらいです。ロンドンの美術大学へ留学し、ゆくゆくはデザインやファッションの道に進もうと考えていました。しかし、いろいろ手がけてみても、自分のなかでしっくりいきません。友人に相談すると「実家の人形作りが合っていたから、他がマッチしないのでは」と指摘されたときに、「ああ、そうだったのか」と再認識できました。異国の地で、あらためて日本の文化を見つめ直す機会があったことも大きいと思います。

仏の清らかさと赤子のあどけなさを
併せ持つ原孝洲ならではの御尊顔

裕子さん うちのお人形の特徴は、まんまるとしたお顔です。仏像のような清らかさと赤ちゃんのようなあどけなさを併せ持つお顔を表現したいと、初代である祖父が考案しました。とにかく品よく、愛らしいお顔になるよう心がけています。何人もの職人を抱えていますが、このお顔を描けるのはほんの一握り。たとえば目元なら、極細の線を40~50本も引く「笹目技法」によるやさしい眼差しを習得するには、とても長い歳月が必要です。また、桐の木の粉を固めた胴体に溝を掘り、裂地を直接貼り込む「木目込み」という技法も特徴です。素材自体は硬いのですが、木の棒を芯に衣装を着せつける一般的な「衣裳着」に比べると、かわいらしくふわっとした印象に作れます。製造はすべて分業です。頭部の成型、顔の描写、体の成型、生地の織りや縫製など、日本各地の職人の力を集結しています。一概にはいえませんが、1セット作るには、少なくとも1カ月はかかります。

一生に一度の買い物だからこそ
独創性の価値が輝く

健二さん 私どもが店を構える浅草橋は人形屋の街とも呼ばれ、かなりの数の同業店が軒を連ねています。しかし孝洲のお人形には、ふっくらとしたお顔と木目込みの柔らかい雰囲気で一目瞭然のオリジナリティがあります。最近では、よそでも丸顔のお人形を作るところも出てきたようですが、理想的な表情を完成させるまでの年季が違います。簡単には真似できません。一生に一度のことですから、お人形選びに何時間もかけて複数のお店を回れられる方がほとんどですが、最終的に多くの方に私共のお人形をお選びいただけるのは、こうした点にあると考えています。

海外への進出も前向きに検討中
観光客にはオリジナル提灯が人気

健二さん これからは、外国の方にも目に留めていただける商品やサービスを展開していきたいと考えています。浅草橋の店舗にも英語のサインボードなどを設置し、海外からの観光客の方々へのご対応もしておりますが、正直価格をみてびっくりされる方がほとんどです(笑)。もちろん、日本の伝統文化に触れていただけるきっかけになるだけでも御の字。子供への愛情は万国共通ですから、それをうまく海外のお客様にも伝えて、どうにか当社製品の販促につなげられればと考えています。今、海外のお客様に好評なのが、漢字やイラストをカッティングシートで表現したオリジナルの提灯です。もともと盆提灯という、お盆の時期に使う道具を取り扱っていますが、その技術を使って観光客向けの商品を開発したところ、大きな反響を得ました。オーダーサービスも取り入れ、注文から15分でご希望の漢字を描いた提灯をお渡ししています。私たちとしてはお盆の時期にのみ使う道具という認識でしたが、海外の方にとっては日常的なフロアライトとして役立てられているようです。

人生に彩りを添える
人形文化をこれからも広めていきたい

健二さん 今後は、日本人のアイデンティティのひとつである伝統的な風習を一層広めたい、また職人の保護や育成を図っていきたいと考えています。五月人形ひとつとっても、人形師以外に甲冑職人、金物職人、塗師、衣装の裂地を織る職人など、古くから続く技術者が集まっており、その技術をいかんなく発揮できる機会を今後も提供していきたいのです。

裕子さん 日本は第二次世界大戦を経て、効率を求める資本主義経済のなかで「手間暇をかけて楽しむ」ことを忘れてしまったのではないかと感じています。たしかに、人形は生活必需品ではありません。しかし、人形があれば人生に彩りを添えられます。私としては、人形は生活必需品ではなくとも人生必需品ではないかと考えています。余裕があるからこそ、日々のすばらしさや幸せを感じられる。そうしたきっかけをご提供できればいいなと思っています。

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