BrandLand JAPAN

  • Relay Interview
  • Dec 15th, 2018

海を越えて伝わっていく
小さいものに宿る大きな価値

株式会社スマイルズ
代表取締役社長 遠山正道さん

BrandLand JAPANのシニアプロデューサーとして、日本の価値あるものをもう一度見つめ直し、国内外への展示サポートを行っている株式会社スマイルズ 代表取締役社長 遠山正道氏。食べるスープの専門店「Soup Stock Tokyo」やネクタイ専門店の「giraffe」、セレクトリサイクルショップの「PASS THE BATON」……と業種を問わず、自分たちがやりたいことをカタチにして衆目を集めてきた。マーケティングではなく“手ざわり”を大切にするビジネスの背景には、地に足の着いた人間らしさがうかがえる。遠山氏が語る、創業から約20年経っても変わらない信念と、時代を踏まえたうえでの誠実な事業展開。改めて、なぜ海外で展開する必要があるのか、何のために始めたのか、原点に立ち戻って考えるきっかけになるはずだ。

規模の大きさは追わず
小さく濃密な世界観を表現する

私たちが手掛けているものに、「檸檬ホテル」という1日1組限定の宿や、銀座に5坪で1冊の本を売る「森岡書店」といったものがあります。どちらも小さいがゆえにリスクが小さいため、思いきったことができて、情報が遠くまで届いているという実感があります。もし「森岡書店」が150坪だったら、1冊しか本を置かないなんてことは無理で、恐らく普通の本屋さんになっていると思います。「檸檬ホテル」も1日1組だからこそ、支配人である酒井啓介夫妻の手厚いおもてなしや、檸檬畑と宿を独占できる贅沢な環境を提供できます。要は、小さいことは価値を留めやすいんです。

「Soup Stock Tokyo」も、もともとは50店で打ち止めといって始めました。来年は創業20年、今は60店を超えていますが、誰も100や200にしようとは言い出しません。スマイルズには、「50より200がすごい」という価値観がないのと、良い店は1店舗出すだけでもすごく大変なことだと知っているからです。私たちが手掛ける「100本のスプーン」というファミリーレストランも、お客様にご好評いただいて出店の話をたくさんいただきますが、相変わらず2店舗のまま。もともと、単に数を増やそうという感覚がないんです。もっと増やす理由や衝動があれば別かもしれませんが、むしろ拡大すると薄まるいう感覚ですね。規模を追うより、小さく世界観を作っていくことが、スマイルズに最初から自然とある価値観なんだと思います。

自分たちが心地よくいられる
“手ざわり感”のあるサイズ感

今、「The Chain Museum」という小さくてユニークなミュージアムを世界にたくさんつくっているのですが、それは珍しく拡大したほうがいいなと思っています。SNSで作家と鑑賞者を結んでいくインフラを作ろうとしているので、より多いほうがいいですし、そもそも小さくてユニークなミュージアムは、世界に50個よりも200個のほうがいいなと感じるからです。ただ、大きいというか、多いことで実現できるものに関してはそれでいいと思うのですが、そうでないのであれば一度立ち止まってよくよく考えることは必要だと思います。マーケットが伸びている20世紀であれば、ただ大きくすればよかったのかもしれませんが、今そうではありませんから。

私は、物事には適正なサイズというものがあると思うんです。会社であれば、自分でちゃんと判断できる手の届く範囲。それを超えるとシステムになってしまいます。ITはもともとがシステムですが、物やお客様との接点、空間といったことを扱っている業態においては、我々の言葉でいうところの“手ざわり感”は、当たり前の要素なんです。

自分の人生を考えたときに
大切にしたいことを最優先に

以前アパレルの現場で、100億のブランドがあるなら、1億のブランドを100個に分けたほうがいいんじゃないかという話をしたことがあります。そうすれば、さらに99人のデザイナーを募集できますし、100個それぞれ違うブランドができたら、お客さんにとっても楽しいですよね。何店舗も構えないといけないというリスクも背負わず、デザイナーが直接お客さんと顔を合わせることができる。ひとりひとりの人生を考えたときに、よっぽどそっちのほうがいいんじゃないかって思うんです。

「giraffe」のデザイナーが立ち上げた「my panda」というブランドは、以前はお店をいくつかやっていたのですが、それをやめて、今では分社化してデザイナーが社長になっています。ブランドを通じて知り合った人たちや、ブランドを好きになってくれた人たちが集まってきて、濃密なかかわりが生まれています。店舗という華やかさへの憧れもあるかもしれませんが、店舗をもつ=在庫を抱えるということなので、だんだん片目をつぶって売れやすそうな形と売りやすい値段のものを作り始めてしまうことは多々あります。そんな荷が重い店舗をもつより、展示会でオーダー生産をしたほうがよっぽど好きな表現ができるし、ずっとやりがいがあると思います。

日本にマーケットのないものが
果たして海外で必要とされるのか

よく日本にはマーケットがないから海外にチャレンジするという話も耳にしますが、それはちょっとリスキーですね。そこに、強い憧れやチャレンジ精神が介在していればひとつの理由にはなると思いますが、日本でできないことが、そんな簡単に海外でできるとは思えません。よく知らない海外で手探りするよりも、日本で近くの人から「あれ、いいよね」と言ってもらえたほうが実は自分にとって嬉しいということもあります。そして、本当に価値のあるものであれば、いつしか遠くまでその情報が広がっていきます。檸檬ホテルも森岡書店も、海外の人に対してアピールしたわけではありませんが、結果として海外の方にも多く評価していただいています。

そもそも売上げという概念でいえば、「Soup Stock Tokyo」も300店くらい出したほうがいいとは思います。でも、私はよくブランドや会社を人に例えるのですが、物事の優先順位の1位がお金っていう人は見たことがないし、いたとしても友達になりたくないんですよね。「Soup Stock Tokyo」が一番大事にしていることは“共感”で、お金は4番目か5番目くらい。儲からないといけないというビジネスのありきたりの固定概念に惑わされないことが大事だと思います。でも、世の中の多くの人はそう思っているので、逆に俯瞰してみると、売上げに惑わされないことが価値になることがよくあります。

海外進出に一番必要なのは
挑戦を楽しいと思う気持ち

海外に飛び込んでいくということは、拡大していくという考えだと思うんですね。当然リスクもたくさんあるなかで、海外で展開したいということであれば、マーケティング的な外の理由ではなく、自分たちの内側にある強い理由が必要です。ビジネスは決して簡単ではないですから、最初から最後まで勝ち続けるなんてことはなくて、劣勢のときもあるわけです。「何でこんな大変なことやってるんだっけ?」と振り返る場面がしょっちゅうあるはずなんですよね。そういうときに、まず自分の中から湧き上がる思いや覚悟といった根っこがないと戦えません。それらがないとうまくいかなかった時に手段を変えられずになんとなくマーケットの違いのせいにしてやめてしまうことになります。でも、根っこをしっかり持っていれば、困難な時も粘ることができるし、手段を変えて工夫することができるんです。

海外で展開するのであれば、まずそのこと自体を楽しむ、好奇心としてやってみたいという気持ちがあるかどうかも大事だと思います。海外の人たちと交わって、自分たちがいいと思うものを評価してほしいし、生活に取り入れてしてほしい。そういう思いがあるからカラフルな鉄瓶のようなものが生まれてきます。だから、大事にする根っこがちゃんとあって、本当に海外でやりたいという意志や、海外で仕事をする喜びのようなものをきちんと持っているかどうかは、一度自分に問いかけたほうがいいかもしれません。

場所を問わず価値のあるものを
生み出せているかどうかが鍵

20世紀が経済の時代なら、21世紀は文化・価値の時代になるだろうと思っています。20世紀後半の日本は経済が主役で、大きな仕組みで大きなビジネスをどんどん増やしていけたけど、それはあくまでも供給が少なかった時代の話です。今は、供給が増えて需要が減り、環境が変わり始めています。経済そのものが主役ではなくなっているわけで、今後はむしろもっと分散化して個々の価値を束ねていく、あるいはプロジェクトごとに組成していくような時代になっていくと思います。

最近、世の中が江戸時代に戻っていくような感覚があるんです。江戸時代は、情報も物流も非常に貧弱で、デザイン、製造、流通、販売、営業、経理などのすべてを数名で行っていたわけです。今後は、そこにインターネットが接続されたような感じになっていくと思います。情報過多で振り向いてもらうことはもちろん大変ですが、きちんと価値のあるものを生み出せる人にとっては、大きなチャンスでもあるし、とても面白い時代だと思います。

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