BrandLand JAPAN

  • Final Report
  • March 1st, 2019

一本の線で作る新空間デザイン

事業者名:平安伸銅工業株式会社
プロジェクトマネージャー:EURO JAPAN CROSSING SARL/西山健二

1952年に町工場から始まった平安伸銅工業株式会社。1970年代からは、ネジやクギを使わずに収納場所を増やすことができる収納用品「突っ張り棒」を市場に送り出すなど、住宅事情に寄り添って歩んできました。今回は、その突っ張り棒を利用したインテリアブランド「DRAW A LINE」の新たな販路を、ヨーロッパ市場で見出すプロジェクトになります。

突っ張り棒のトップシェアメーカーである平安伸銅工業。都市部に人口が集中し、狭小な住環境が増えていくなかで、アメリカでシャワーカーテンを吊り下げる道具として使われていたテンションポールを、ネジやクギを使わずに収納場所を増やすことができる収納用品「突っ張り棒」として用途提案し、日本中に普及させた先駆者です。突っ張り棒はいわば“便利グッズ”であり、裏方のアイテムとして扱われがちでしたが、暮らしを豊かにするアイテムになりうる。「DRAW A LINE」は、そんな着眼点から、クリエイティブユニットTENTとのコラボレーションで生まれたブランドになります。垂直/水平方向のシンプルな突っ張り棒に、照明やシェルフ、テーブル、フック、マグネットなどのオプションパーツをプラスしてカスタマイズしていくアイテム。使い方はアイデアによって無限大で、ちょっとした場所に家具が増えるような面白さがあります。今回平安伸銅工業は、この「DRAW A LINE」の本格的なヨーロッパ展開に乗り出すことになりました。

プロジェクトの始動後すぐに行ったのが、9月にパリで行われたメゾン・エ・オブジェへの出展と、ポップアップショップを行うための交渉です。日本でもよく知られたライフスタイルショップ「Merci」と並ぶ有名店で、来店者数では「Merci」を上回る「Fleux」でのポップアップが決まりました。これら海外イベントの準備として、英語のウェブサイトの作成も行いました。もともとシンプルなウェブでもあるので、海外マーケットに合わせた編集などはせず、日本語サイトをそのまま翻訳したような作りです。あわせて、商品の説明のためのブランドカードなども作成しました。カードには、インスタグラムやウェブサイトも記載し、オンラインでも接点をつくりました。

メゾン・エ・オブジェは、新進のデザインブランドが集まるホール「TODAY」での単独出展となりました。市場に類似商品がないということで、以前から好評だったヴァーティカルタイプ (縦突っ張り)をメインとしたブース構成とし、実際に3ステップで設置できるデモ空間も用意して、“誰でもどこでも一本の線から空間づくりが行える”というコンセプトを体験していただきました。

「Fleux」でのポップアップショップは、「メゾン・エ・オブジェ」の会期終了後に1週間行いました。ポップアップの会場を「Merci」ではなく「Fleux」に絞って交渉を進めたのは、品揃えの方向性が、より「DRAW A LINE」に合うからです。お客さんの数が多いことに加え、ヨーロッパ中のバイヤー達も視察に来るショップなので、ここで扱えばシャワー効果で他へも流れていくだろうという期待もありました。先方の担当者とコンタクトできても返事がなかったりと、交渉には手こずりましたが、実物を見ていただけたら「これはとてもいい」と話が進み、ショップ入り口すぐの、とてもいいスペースをお借りすることができました。

この1度目のポップアップショップでは、1000人以上の方にブランドカードを持って帰っていただくなど一定の手応えがありました。反面、そうやっていいスペースで展示ができたのに、見せ方に課題が残りましたね。9㎡ほどのスペースに、壁を多用して商品をとりつけたところ、店内に自然に溶け込みすぎて、商品がお店の什器のようになってしまったんです。引っかかりがまるでなくて、お客さんの目が一度は止まっても、すっとそのまま流れてしまう。これではいけないと、すぐにわざと大きめの値札をつけたり、照明をお客さんの動線側に回したりと工夫をしてみましたが、どうしても“什器感”が消えない。それで、会期後半には、いくつかのパーツをばらして、モノとして見える形にして販売しました。その結果、照明などが購買につながりました。

9月のポップアップは、そうやって展示の仕方、売り方を模索しているうちに終わったという感じです。商品としての魅力でもあるのですが、線がとても細いので、展示はよほど上手に考えないとアイテムとして目に止まらない。ここでの経験は、次の展示に必ず生かそうと強く感じました。

2カ所での展示の後、物流体制の整備に入りました。それまでは、海外から注文がある度に日本から輸出をしていたのですが、そのやり方では運賃も割高になりますし、時間もかかる。それで、パリの倉庫を借りて、最小限の在庫を持つことになりました。加えて、以前は海外での価格はEx-Worksにしていて、関税や送料などまで織り込まず、ヨーロッパの買い手側にすべて負担してもらう形にしていたことをやめ、海外での販売価格を決めていきました。

最初の在庫は実際には飛行機で輸送しましたが、混載の船便で送ったと仮定して送料をはじき出し、そこに輸入代理店へ支払うマージンをのせて価格を決めていく。日本では、たとえば店頭価格が100円だとするとその6掛け、7掛けで卸すというようなことが商習慣として普通ですが、ヨーロッパでは通常、店頭の希望小売価格がありません。卸価格だけがあって、店側が自由に掛け率を設定して価格をつけることができるんです。一般的に、雑貨だと仕入れ値を2.4倍した数字が小売価格になるので、その計算式に合わせていくと、アイテムやターゲットとする顧客層を考えた場合、価格が少し高い印象になることが分かりました。次の段階として、1度に日本から輸出する量を増やすことで一個あたりの送料を抑えて、15~20%価格を下げることを目指します。  

「メゾン・エ・オブジェ」、「Fleux」でのポップアップを経て、新しい顧客との接点は確実に増えていきました。顧客リストへの一斉メールなどをこまめに送ること、在庫をヨーロッパ内に持ったことなども実を結び、少しずつ実際に注文が入り始めたのもこの頃です。さらなる受注を期待して仕掛けたのが、年末が見えた頃の15%引きセールです。完全にBtoBのみで、一斉メールで営業をかけたところ、注文が目に見えて増えました。デザイナーなどのクリエイターからもオーダーがあり、それも潮目のひとつでしたね。彼らがコワーキングスペースや自分たちのクライアントのインテリアに使ってくれることで早く動いていきました。いちばん動きがいいのはフランス。そのほかベルギー、イギリス、ドイツあたりがメインです。

年が明けて2月には、再度「Fleux」でポップアップを行いました。自分たちで考えて設営した展示がショップの什器に溶け込んでしまったという反省点を踏まえ、この2回目は現地のデザイナーを入れて展示空間をつくりました。その表現方法は、「DRAW A LINE」に載せたり、ひっかけたりするモノをすべてピンクにペイントするというもの。ぱっと目を引き、同時に黒と白の「DRAW A LINE」も製品として目に入る。同時にインスタグラムの公式アカウントではキャンペーンも行って、644件の「いいね」と、262件のコメントかつくという反応を得ました。1週間の会期中のお客様は推定3500人~4000人。スタッフの受けもよく、今回は売れ行きもよかったため、「Fleux」での継続販売が決まりました。

ポップアップはスペースに対して料金を支払いますが、常設での販売が決まった現在は委託になります。これがある程度動き始めると、買取へと移ることもあるそうです。「Fleux」で扱うアイテムは2万点ほどにもなるとかで、すべてを買い取ることはしないんですね。パリに常設で買える拠点ができたので、今後はベルリン、ロンドンなどの大きめの都市にも拠点を増やし、そこから地方都市へと展開していく予定です。

2月までの売り上げ目標は1,000万円でしたが、実際の数字は400万円ほど。「メゾン・エ・オブジェ」やポップアップはあったものの、そこで仕掛けた色々なことが実ったり、あるいは反省点を微調整するまでに数ヶ月がかかり、本格的にオーダーが動き出すまでに3、4ヶ月はかかったので出足が遅かったものの、大きな手応えとこれからへの期待はありますね。

実際に顧客やショップとコミュニケーションをとるなかで、使用例のポスターがほしいとか、取りつけの動画が欲しいとかの声も入ってくるようになりました。「突っ張り棒」というと、バネ式の安価なものが多く、“すぐに落っこちてしまうアレ”と思われる方も少なくないようで、そこはこれからの課題だと思っています。「DRAW A LINE」の突っ張り棒はネジ式なので、全く強度が違うんです。そこのところは展示方法や動画の制作などで上手くアピールできるようにしていくべきところですね。

価格が決まり、在庫もヨーロッパに持ったことで、DRAW A LINEは今ヨーロッパ市場でやっと出発ラインに立ったという感じです。ここからまた努力を続け、さらに多くの市場で展開できるよう頑張っていきたいと思います。

 

 

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