BrandLand JAPAN

  • Project Report
  • Feb 27th, 2018

欧米豪向けハイエンド地域体験提供事業


山伏修行プログラム:Yamabushido

事業者:株式会社めぐるん
プロジェクトマネージャー:岡本岳大

古くから聖地・霊場として信仰の対象となってきたのが、山形県庄内地方にそびえる羽黒山・月山・湯殿山。出羽三山と称されるこの場所で、山伏修行体験を中心とした欧米豪向けのプログラム「Yamabushido」を開発し、海外販路の開拓を目指したプロジェクトです。プロジェクトマネージャーの岡本岳大氏にこれまでの歩みと、今後の展望を伺いました。

日本向けの旅行商品をつくるために、
世界の旅人たちの需要を分析

 実は今、海外旅行をする人の数が世界中で増えていて、現在は13億人ほど。2030年には18億人まで増加するそうです。その半分以上がヨーロッパの人たちですが、その中で日本を訪れる人の割合はまだまだ少ない。すごく限られているというのが現状です。だからこそ日本の旅行商品をつくるにあたっては、世界の旅人たちの需要を分析して、ターゲットを絞っていくことが大切だと思います。

 そのために我々が最初に行ったのは、9月に東京ビッグサイトで行われた「VISIT JAPAN Travel & MICE Mart 2017」への出展です。これは海外の訪日旅行を取扱う旅行会社と全国の観光関係の事業者が集まって、様々なインバウンド関連ビジネスを創出する商談会なので、ここで世界中のいろいろなバイヤーたちの意見をきくことができました。そして、10月にファームツアーを実施。10月から11月は海外の媒体に取り上げていただき、年末にはセールスキットを作成。当初の予定は、ほぼ計画通りに進みましたね。

厳格な内容だからこそ、
充実度や満足度が高い

 ファームツアーでは、プログラムの内容や価格の設定などをブラッシュアップするために、メディアや旅行会社の方をはじめ、いろいろな方に山伏修行を体験してもらい、感想を伺いました。その結果、宗教的だと感じる人もいれば、かなりの距離を歩くのでトレッキングのようだと思う人もいたようです。また、黙って歩き続けるので、瞑想のような感覚になり、スピリチュアル的な体験だったと言う人もいました。さまざまな感想がありましたが、共通して感じてくれた興味深い点は、「身体性の回復」という視点です。東京でも海外でも都会で生きていると、まず頭で考える癖がついていると思います。例えば、冷たいペットボトルを手で持った時に、体で冷たさを感じることよりも、飲み物の商品名を読み、これはどんな成分が入っているんだろうと真っ先に考えてしまったり。でも、山伏の修行では、まずは思考の部分よりも体で感じる冷たさを大事にする側面があります。まず感じる、考えるのはそれから、という体験です。それによって普段の自分とは違う人間本来の感覚や身体の器官の使い方を取り戻すことができる。これはみんな良い経験だねと言ってくれました。

 というのも、修行中は話をしない、携帯電話を使わない、「うけたもう」と言って、言われたことをとにかく受けいれる、など、Yamabushidoの体験はかなり厳格なものなんです。その理由が修行の最後にひも解かれるんですが、半ば強制的に非日常に入るからこそ、2日や3日の短い体験でも充実度が高いと思います。僕たちと一緒にファームツアーに参加したクライアントのフランス人は、途中で何度も帰りたいという表情をしていましたが(笑)、最後にその精神を理解した時に深い充足感を味わっていました。基本的にみなさんの満足度が高くて、そこは関わっているメンバーが自信を持ったところですね。

 その後は、事業者である株式会社めぐるんのメンバーたちと相談しながら、体験していただいた人やお問い合わせをいただいた人たちの反応を踏まえて、山伏修行に関して4つのターゲットのカテゴリーを設定し、プログラムの詳細を検討していきました。

ターゲットのイメージを
4つのタイプに絞り込む

 日本の歴史文化に興味があって、それを知るひとつの手段として山伏を体験したいという層を「エデュケーテッド(成熟した旅人たち)」と位置づけました。おそらく出羽三山に来る4割から5割の方がこちらのタイプだと思っています。これにさらに付加価値やオプションの特別な体験を求める層を「ラグジュアリ」、法人向けの研修などに利用してもらうのが「チームビルディング」。もっと深く日本人向けの山伏修行の内容をそのまま体験したいような「スピリチュアル」という4つが、今回の事業を通して可能性を検討したターゲットイメージになります。

「エデュケーテッド」や「スピリチュアル」の旅人は世界中にいると思いますが、山伏修行と似たような体験ができるツアーといえば、スペインの巡礼ツアーや、ノルウェーでサーミ族のテントに泊まってオーロラを見に行くツアー、チベットやアメリカのセドナへのツアーなどになると思います。日本にはまだ似たようなツアーはほとんどないし、ここまである意味でストイックな体験は、海外でもなかなかできないのではないでしょうか。

日本への旅行商品を、
海外の旅行会社にどう売り込むのか?

 ターゲットやカテゴリーが見えたところで、ヨーロッパの旅行会社に売り込みを行いました。実はヨーロッパやアメリカ、中国をはじめとするアジアで販売されている日本への旅行商品は、その8割程度がいわゆるゴールデンルートと呼ばれる、東京、富士山、京都、大阪を結ぶラインを旅するものです。欧米の旅行者はさらに広島が加わって、帰りに飛騨高山や金沢を回って帰ってくる2週間ほどのルートが定番となっています。旅行会社を通さずに個人で日本を旅する人たちもこのルートを辿ることが多いようです。これに対して、我々の山伏修行は3日間や5日間のプログラムを売り込んでいくものなので、現状を踏まえるとかなりの挑戦だと思っています。こうしたピンポイントの商品を海外に直接売り込むこと自体がこれまで少ないので、ヨーロッパの旅行会社の日本商品の担当者と話した時も“さて、どう扱おう?”みたいな反応もあって、そこを商品としてどう定着させていくのかはチャレンジですね。

 基本的な売り込み方としては、まずは山伏修行を目的とする5日間の旅行商品をつくって売ってくださいとお願いします。でも、先方から新しい商品は売れるのかわからないと言われたら、2日間や1日でも体験できるライトな商品も用意してあるので、オプショナルツアーとして、金沢の代わりや広島を1日早く切り上げて山伏修行の舞台となる山形県・庄内地方に行くみたいなことができないかと提案をしています。というのも、ヨーロッパの旅行会社は、パッケージツアーをそのまま販売するというよりは、ゴールデンルートを旅する基本パッケージがあったら、それをお客さんに合わせてカスタムして売ることのほうが多いんですね。その中で、うちは前回富士山に登ったから今回は別の場所に行きたいとか、どこそこには興味がないとか言われた時に、山伏修行を提案してもらうというのは、最初の入り口としてはありだと思います。

今後は山伏の後継者を
育てていくことも重要

 あとは価格の設定です。山伏のプログラムはゴールデンルートの商品と比べると、高価格帯に入ると思います。その理由はいくつかありまして、いろいろとリサーチした結果、これくらいの価格であれば受け入れてくれる業者や旅行者がいるということと、プログラムを催行できる期間と受入れられる人数から逆算すると、サステナブルにしていくにはこのくらいだろう、ということで設定しました。プログラムの中心人物である羽黒山伏の星野文紘さんは、大聖坊という宿坊を運営されていたり、山伏として行事や講演などで幅広く活動されていますが、ほかの方の中には別の仕事をしながら山伏としての活動をされている方もいます。みなさんがいつでも外国人旅行者の修行に同行できるわけではないんです。こうした現状を踏まえると、このプログラムを続けていくためには、今後は山伏の後継者を育てていくことも非常に重要になってくると思います。また、今は外国語は英語にしか対応していないので、ほかの言語にも対応できるようにしていかなければいけないなと感じています。

 コミッションに関しては、旅行会社と並行してオンラインでも販売していこうと思っていて、両者に価格差がありすぎるといけないので、そのへんの設定はけっこう大変ですね。今、一応、決めてはいるんですけど、たぶんこのあともまた変わっていくだろうという前提ではいます。

海外の視点を踏まえて
開発された商品を売り込むべき

 今回の成果ですが、2月末現在で26社にアプローチを行い、3社が商品化。うち1社がすでに旅行を成立させています。今後は理想とする年間400人から500人程度の集客を目指していきたいと思います。

 このプロジェクトに携わらせていただいて思ったのは、日本の商品を海外にもっていくというよりは、最初から海外の視点、海外のネットワークに売り込んでいく前提で商品をつくっていくことが大事だということです。我々のチームは海外にいるメンバーも多くて、ある時は東京、庄内、イギリス、ドイツ、アメリカ、オーストラリアの6ヶ所をウェブ会議サービスでつないでミーティングを行いました。そのかいもあり、さまざまな視点をもって商品を企画できたこともよかったと思います。山伏の体験というのは、いわゆる消費される旅行商品ではなくて、出羽三山の文化そのものです。ですから、世界にはこういったことに興味持つ人や気になっている人たちのコミュニティがあるはずで、海外の旅行会社にセールスをしていくというマーケティング発想だけではなく、そういう世界のコミュニティ同士をつなげていくことも大事なんだなと強く感じました。