BrandLand JAPAN

  • Project Report
  • Feb 27th, 2018

カキモリプロジェクト

事業者:株式会社ほたか
プロジェクトマネージャー:小路 輔

東京・蔵前にある人気文具店カキモリが、台湾を中心としたアジア各国に販路を拡大。アウトバウンドだけでなく、インバウンド需要の増加にも繋げるプロジェクトです。目標にすべき日本の中小企業の成功事例がないこともあり、今、注目の現地の店や企業に好調の秘訣をリサーチ。プロジェクトマネージャーの小路輔氏が、急速に変化する台湾の文化的背景を踏まえて、これまでの道のりを語りました。

台湾で中長期的に成功するためには?

 今回のカキモリのプロジェクトは、短期的ではなく中長期的に台湾だけではなくアジア圏でどう販売していくのかを見つけるために行いました。当初の予定は、8月、9月に現地での視察調査を行って、10月、11月に台湾で参加するイベントを決定。12月、1月にテストマーケティング・プロモーションやイベント、ポップアップショップを行う流れです。実はカキモリは2015年に台湾でポップアップショップを2ヶ月半にわたって展開したことがありまして、かなり売れたんですね。ただし、それはその時だけで終わってしまった。だからこそ、今回は中長期的に見て何をしたら成功するのかを見つけるために、さまざまな施策に取り組みました。

 そのひとつが台北でのイベントへの参加です。今回、私たちがイベント選びでこだわったのは、入場が有料のものであること。やっぱり無料のイベントには、カキモリがターゲットにしている日本のものづくりを理解して購入する人たちが集まりにくいんですよね。あと気をつけなければいけないのが、一緒に出展するブランドが、台湾、日本問わず、自分たちと同じようなブランドなのかどうか。それらを考慮した結果、12月9日(土)、10日(日)に行われた「第二回Culture & Art Book Fair in Taipei」への出展を決めました。

イベントでは一緒に参加する
他社のイメージも考慮する

 このイベントは台湾のデザイン雑誌『Shopping Design』で賞を獲っていて、出展する店やメーカー、商品なども同じ賞を受賞していることが多いんです。つまりは洗練されたブースが並ぶ中にカキモリも出展できたため、今回、初めてカキモリのことを知った人にも良いイメージを与えることができたと思います。おそらく日本のブランドが日本のイベントに出展する時は、他社との並びを考えると思いますが、海外のイベントになるとこの考えが抜けてしまうことが多いので注意が必要です。ちなみに来場者数は1万人。男女比は女性が7割。平均年齢が29.5歳で、訪日経験率が90.5%、訪日回数は3.3回でした。カキモリが台湾で設定したターゲット像にとても近いです。

翻訳は直訳ではなく、イチから考えて書く

 イベントでのポップや販促物などの翻訳は、カキモリ専任の翻訳者を立てて行いました。お願いしたのはもともと文房具が好きな方。カキモリの蔵前の店舗に修行に行ってもらってブランドのことをよりよく知ってもらった上で、翻訳作業をお願いしました。商品の名前やキャッチコピーなどを翻訳する時に、そのまま直訳するのは意味がないんですよね。訳すのではなく、カキモリのことを理解した上でイチから書くことを心掛けました。

 また、万年筆のインクの色に日本古来の言葉が使われていて翻訳が難しいんですが、それでも翻訳して伝えるのか、翻訳者のイメージで言葉をつくるのか、それとも台湾に近い色があればそれにするのか、カキモリさんと相談して決めました。場合によっては日本語のままで進めることもあります。台湾人にとっての日本語は、日本人にとってのフランス語のようなオシャレなイメージがあると思います。だから無理に訳してニュアンスが正確に伝わらないくらいなら、日本語のままにするという選択肢もありなんです。

台湾のカルチャーを牽引する
人たちに成功の秘訣を伺う

 プロジェクト全体を通しての一番のポイントは、ジャパンブランドやメイドインジャパンの製品を受け入れてくれる層に対して、ちゃんと訴求できて成功されている台湾のメーカーやブランドに、その秘訣を聞いたことです。グローバルに展開しているような超大手ブランドをのぞいて、台湾で日本の中小ブランドが中長期的に成功しているケースってほとんど聞いたことがないんです。短期的に成功させることはさほど難しくないんですが、何年もかけてマーケットに落とし込んでいくことはできていません。だったら日本のブランドの真似をするよりも、台湾で成功しているみなさんにお話を聞いたほうが確実だと考えました。

 カキモリは2015年に台湾でポップアップショップを行った時に、業界関係者やインフルエンサーなどといろいろなコネクションができていたんです。だから今回いろいろな方にヒヤリングをお願いしてみると、みなさん、すでにカキモリのノートを見たり、触れたりしていたので、快く引き受けてもらえることができました。その結果、台湾のカルチャーを牽引している誠品書店やVVGなど約30社にお話を伺うことができました。ヒヤリングした内容は、5年前より前と後では何が一番変わったのか、ここ4〜5年で店や会社が成長したけど何が一番重要だったのか、台湾ブランドである自分たちや日本ブランドに関してどう思っているのか、日本ブランドの台湾進出について、などになります。

ここ5年で台湾人の
ライフスタイルが激変

 実際ここ5年ほどの間に台湾のライフスタイルは大きな変化を遂げていて、変わりゆく流れの中で、みんながカルチャーやクリエイティブなものをそれまで以上に意識するようになっていますし、50年間にわたる、かつての日本統治時代の雰囲気を懐かしみ、昔の建物をリノベーションしてカフェやゲストハウスにするような動きも起こっています。2016年に、デザインによって都市を振興するプロジェクト、ワールド・デザイン・キャピタルが台北で開催されたことも、この流れを後押ししていると思います。また、文創(ウェンツァン)というカルチャー&クリエイティブを意味する言葉が注目されたり、文青(ウェンチン)と呼ばれる、デザインやアート、カルチャーに関心の高い男性が台湾にもどんどん増えてきたのもこの頃からです。

 そのトレンドをつかんで、日本のメーカーやブランドは台湾展開をするだけでもいいんですが、逆に台湾の人たちにはマネのできない、日本ブランドならではの強みもあります。それは日本にもショップがあるということ。台湾でイベントに出展したり、店舗を開く場合は、インバウンドも意識して施策を行う、つまりアウトバウンドとインバウンドの両方でやっていくことがすごく大事なんです。

アウトバウンドへの取り組みが
インバウンドにも好影響をもたらす

 台湾の人口はおよそ2350万人ですが、年間で日本を訪れている人の数は、400万人強。これは老若男女すべての数字なので、若者に限ればかなり高い割合になるはずです。そうなるとなにが起こるかといえば、例えば、カキモリの場合、台湾のイベントに出展すると商品が売れます。でも、それだけではないんです。その翌週末にはカキモリの蔵前の店舗に台湾の人たちが押し寄せるんですよ。タイムラグがほぼない。台湾のイベントの来場者が写真をSNSにアップすると、その投稿を見た、日本に旅行にきている友達やフォロワーが、だったら私は蔵前のカキモリに行ってみるとなり、蔵前の店舗の写真をアップするんです。もう見栄の張り合いみたいなものだから、本場のカキモリに行って自慢する。するとそれを見た日本にいる別の台湾人がさらに蔵前の店舗を訪れるという流れが起きます。だからアウトバウンドでなにかを行えば、インバウンドでもチャンスになるんです。カキモリ代表の広瀬さんは2015年に台湾に進出した時にそのことに気づいていたので、今回は蔵前の店舗に訪れる台湾の方への対策がうまくいき、インバウンドでの売上を増加させることができました。

顔を知ってもらうことが
ブランドの信頼につながる

 台湾から日本へは、安ければ1万円以下で来られますし、飛行時間も、例えば、台北松山空港から羽田空港までは最短で3時間弱。だからこそアウトバウンドの際には販売価格の設定に注意する必要があります。例えば、日本で簡単に手に入る大手セレクトショップの商品の場合、内外価格差はかなり小さくなっています。もし日本と台湾での販売価格にかなりの差があれば、日本で買ったり、日本に遊びに行く友達に頼んで買ってきてもらうからです。でも北海道の山奥に行かないと買えないような商品であれば、日本での販売価格との差が大きくてもOK。価格設定はかなり難しいので、マーケットでの反応をみながら慎重に決定することが重要ですね。

 今後は、今回のプロジェクトの成果を踏まえて、カキモリの商品をできるだけ長く台湾で販売していければと思っています。カキモリ代表の広瀬さんは現地のメディアへの露出が増えていて、文房具界のトレンドを牽引する人として紹介されています。そこで広瀬さんにもどんどん前に出てもらいながら、半年に一回くらいはイベントなどに出展していけたらと思います。台湾では広告に社長の顔写真がドーンと掲載されるケースも多いんですが、それは台湾では顔が信頼になるからなんです。このあたりも台湾で成功する秘訣なのかもしれません。