BrandLand JAPAN

  • Relay Interview
  • Dec 14th, 2018

インバウンドも「もの」から「こと」へ

株式会社やまとごころ 代表取締役
インバウンド戦略アドバイザー 村山慶輔さん

2017年度の訪日外国人の数は約2800万人。10年前に比べれば約3倍以上の数字だ。そして東京オリンピックが予定されている2020年、政府が打ち立てた目標は4000万人。まさにここ数年で劇的な成長を遂げるインバウンド市場。そんなインバウンド市場に10年以上前から参入し、現在ではインバウンド戦略アドバイザーとして活躍する村山慶輔さん。そんな村山さんが率いる株式会社やまとごころとは?起業のきっかけや、昨今の市場トレンド、そして迎い入れる側として私たちが心掛けるべきこととは?インバウンドビジネスのトップランナーが見据える2020年、そしてそれ以降について。

インバウンドに特化した
総合コンサルティング会社

株式会社やまとごころの事業は大きく3つです。1つはインバウンド関連情報を掲載するWEBメディアの運営。企業向けのセミナー情報から、インバウンドで成功している自治体・小売店・旅館などの事例、さらにマーケットの統計データなどを掲載し、無料で発信しています。2つ目はメディアから派生したコンサルティング事業です。国や地域や企業と一緒に、外国人の方々を呼び込む戦略立てのお手伝いをしています。3つ目はインバウンド版の求人マッチングです。現在、弊社に登録している求職者は1万5千人。その内6割が日本人で4割が日本在住の外国人、全員に共通しているのがバイリンガルであること。そして求人登録している企業は累計500社。そのマッチング支援を行なっています。求職者の年齢も20代から70代まで幅広く、中には長年商社で働き、世界中を飛び回ってきた経験を最後は自国のために使いたいという年配の方もたくさんいらっしゃいます。今まさに沸いているマーケットなので登録者数はどんどん増え続けています。

起業のきっかけは
海外経験で実感した課題

もともと学生時代から日本と海外の架け橋のような仕事をしたいと思っていたので、高校卒業後はアメリカの大学に進学しました。海外で生活していく中で気付いたのが、日本の情報が圧倒的に少ないということ。その原因は、そもそも日本が情報発信をしていなかった。発信されていないからこそ、日本に対するステレオタイプな印象が蔓延し、正しい日本がちゃんと伝わっていませんでした。それと同時に、自分自身も日本のことをあまり知らないということに気づき、恥ずかしくなったのを憶えています。

「日本と海外をつなぐ」というキーワードはあったものの具体的な事業計画はなく、大学卒業後は一旦帰国してコンサルティング会社に就職しました。それでも30歳までには起業しようと決めていたので、29歳の時に一念発起して独立。どうせやるなら自分の好きな旅行や観光に関わりたくて飛び込んだのがインバウンドでした。

独立してすぐにメディアを立ち上げました。その理由は単純で、まず他にそのようなメディアが無かったから。そして何よりも、自分自身でインバウンドを勉強したかったから。メディアを立ち上げれば、ひたすら情報を集めて、取材を繰り返すので、自ずと知識が増えていきます。地道にその作業を繰り返すことで、徐々にノウハウが蓄積され、専門性も高まり、次第にインバウンドの相談が来るようになりました。

2030年には年間6000万人!
市場拡大に伴う適正な予算配分とは?

弊社がスタートした当時の訪日外国人数は年間800万人程度。インバウンドという言葉も一般的には全く普及しておらず、旅行業界関係者のみが使う専門用語でした。ところが昨年の訪日外国人数は2800万人を越え、今年は3000万人を超える予定。政府は2020年に4000万人、そして2030年には6000万人という目標を立てています。マーケットがそれだけ拡大するので、そこに費やされる観光予算も当然ながら増加します。そこでポイントとなるのが予算配分です。

弊社では各自治体が公表している予算情報を分析しているのですが、ここ最近の傾向だと、観光予算の約半分は情報発信に使われています。情報発信をしていなかった数年前に比べれば、日本は発信に対して積極的になっていると言えます。しかし一方で、受け入れ体制や施設の整備などは4%、商品開発も6%に留まります。情報発信などの「攻め」に予算の50%を使い、「守り」は10%ほど。この予算配分を今後は見直していく必要があると感じています。

例えば、日本には素晴らしい景色がたくさんありますよね。でも正直な話、景色だけを楽しんで帰られてしまうとビジネスは広がらない。お土産などの商品ももちろんですが、日本にはアクティビティなどの体験商品やツアーなどの観光商品がまだまだ足りていません。これだと、情報発信して観光客が来てくれたけど売り物が無かった、という残念な状況になりかねません。その上、これからの観光業はいかにリピートしてもらうかがカギになります。来てもらった時にどんな体験をさせて、何を買って帰ってもらうか。そこに力を入れていくフェーズに来ているのだと思います。

外国人接客は苦手、、、
意識の壁を壊す成功体験を

インバウンド対策でもっとも重要なのは、受け入れる側の意識改革です。まだまだインバウンドに対して悲観的な方や、外国人観光客に対して苦手意識を持っている方が多いのが実情です。そんな苦手意識の壁を壊すために私がよく勧めているのが、自分たちと同じ規模の業態でインバウンドが成功しているところを実際に見にいくことです。インバウンドで成功しているところの多くは、決して特別流暢な英語や外国語が飛び交っているわけではなく、ほんの些細な工夫やアイデアで観光客の心を掴んでいます。視察した大半の方は「え?あんなので良いの?」と言います。「これならうちでもできるな」と、そう思うこと自体が大事なんです。

例えば、ある地方の商店街に小さなお茶屋さんがあります。そこはそれまで外国人客が来ると店員がバックヤードに逃げて、じゃんけんで負けた人が接客するというありさまでした。しかし商店街をあげた免税対応とプロモーションのお陰で外国人客が頻繁に来るようになった。そして逃げる時間もなくなったところで気付き始めます。接客するのに必要な英単語って実はそんなに多くないということに。事実、「ビター」と「スイート」ぐらい憶えれば、外国人客は喜んでくれたのです。そして今では外国人が店の前を通ると声をかけるほどになりました。切迫した状況の中で小さな成功体験をする。それは頭の中だけでやっても意味がありません。どれだけセミナーで話を聞いて、熱心に参考書を読んでも、結局は現場で体験しないとブレークスルーはできないのです。

インバウンドをきっかけに
世界中にファンを作る

最近よくメーカーさんにお話しているのが、インバウンドだけではなく、その後のアウトバウンドも見越しましょう、ということです。具体的には、顧客目線で考えるということです。外国人観光客の立場から見れば、日本に滞在する期間なんて彼らの人生の中のほんの一瞬です。その一瞬で、いかにたくさん売るかではなく、その一瞬でファンになってくれた方が、それ以降もずっと買い続けてくれるような仕組みづくりを考えましょう、と。昨今ではインターネットも普及し、小売りや物流でも様々なサービスが誕生しています。インバウンドをきっかけに世界中にファンを作り、彼らが帰国しても商品を購入してもらえる販路を整える。そんな視点が大切です。

例えばとある包丁メーカーさんは外国人観光客向けに料理教室を定期的に開催しています。さらに日本で学んだ料理を自国に帰っても再現できるようなレシピ構成にするなど工夫を凝らしています。というのもそのメーカーさんの包丁は相場価格より少し高いのです。しかし、そういう企画や工夫をすることでファンを作り、それが各国で口コミになり、コミュニティとなった事例もあります。

インバウンドの消費傾向も
「もの」から「こと」へ

インバウンドの大きな傾向として、地方に行く方が増えています。全体の数が増えているので必然ではあるのですが、東京、大阪、京都、沖縄、北海道だけではなく、大都市以外の宿泊者数は増え続けています。また、リピーターも増えています。2〜3回目の方々は、観光だけでなく、日本人と触れ合ったり、四季を感じたり、農村で過ごしてみたり、よりディープな体験を求める傾向があります。国内でよく耳にする消費傾向の「もの」から「こと」へのシフトは、インバウンド業界でも同じなのです。

また、現在の訪日外国人の約8割はアジアの方々ですが、昨今は欧米豪からの観光客も増えています。来年はラグビーのワールドカップもありますよね。ラグビーの強豪国は欧米豪が多いんです。彼らは滞在期間も長く、国内移動にも積極的です。買う物も、アジア系の方々は家電、日用品、アパレルがメインになるのに対し、欧米豪の方々は伝統工芸品など、ザ・ジャパン的な品を好む傾向があると言えます。

強めるべきは国内の横のつながり

これからどんどん訪日外国人の数が増えると、街や地域単体でできることにも限界が出てきます。日本全体としてインバウン対応をしていくためにも、国内の横のつながりをもっともっと強めていく必要があると感じています。外国人観光客は様々な場所に行きたいはずです。自分の街以外にお勧めできる街や地域を知っておくことは決してマイナスにはならないはず。私自身も各地方に行き、インバウンドのキーマンと繋がることを意識しています。

して、日本を案内できる人が、観光業界に携わる人だけでなく、小売やサービス、一般の方々の中にもっと増えれば、インバウンドはもっと成長していくと思います。インバウンドを知るために一番手っ取り早いのが、自分が海外に行くことです。実際に自分が観光客になること。自分が外国人の立場になること。そうすると自ずと嬉しいこと、嫌なことを肌で感じられます。それがすごく大きなヒントになるはずです。