BrandLand JAPAN

  • Relay Interview
  • Oct 20th, 2018

SIWA | 紙和 一瀬愛さん

「SIWA | 紙和」は、2008年にスタートした和紙製品ブランドだ。和紙の産地、山梨県市川大門を拠点とする和紙メーカーの大直が、工業デザイナーの深澤直人氏の協力を仰ぎ、紙の可能性を広げる新たな日常品として開発。やぶれない障子紙「ナオロン」を活かしたカバンやステーショナリー、日用品は、いまでは世界20カ国以上で販売されている。SIWAの立ち上げから携わってきた開発プロデューサーの一瀬愛さんに、話を伺った。

偶然が重なり両親が手がけていた
和紙ブランドの店長に

私の生まれた山梨県市川三郷町は1000年の歴史のある和紙の産地で、家業である大直は祖父が設立しました。当初は障子紙や書道半紙等を製造していましたが、住宅事情や生活環境の変化にともなって障子紙の販売方法や需要内容も変わり、破れずに張替えの少ない障子紙の開発や、文具やご祝儀袋などをそろえた独自ブランド「めでたや」の展開を行っていました。
東京の学校を卒業した私は別の企業に勤めていたのですが、契約の終了と「めでたや」吉祥寺店の店長が辞めるタイミングが重なり、手伝うことになりました。最初は特別な想いもなかったのですが、徐々に自分にできることはなんだろう?と考えるようになり、等身大の製品開発をしたいという思いと、会社としても新規顧客の開拓や海外展開をしていこうという流れが生まれてきて、それがSIWAへとつながっていきました。

同郷出身の深澤直人氏に
新しい和紙ブランドづくりを依頼

父と相談した結果、まったく新しいジャンルに挑戦するなら、和紙の業界ではない方にお願いしてみることになりました。そこで思い当たったのが、同じ山梨出身の工業デザイナーである深澤直人さんです。私は学生時代にデザインを学んでいて、その頃から深澤さんに興味を抱いていましたし、父も深澤さんの書籍を読んでいたことがあり、気になっていたんですね。
依頼に行く当日、あえて細かいことはいわず、「日常的に使える和紙のブランドを作りたい」とだけお願いしようと決めてお話にいきました。熱心に私たちのお話を聞いていただき、深澤さんは「楽しそうだからやってみよう」と引き受けてくださることに。

シワが取れない弱点を活かし
和紙特有の質感を表現

当社の製品や素材を色々と見ていただく中で、深澤さんの目に留まったのが独自開発した「ナオロン」でした。和紙の風合いがあるのに強度があり、やぶれないのが特徴の障子紙です。一度シワがつくととれないのが唯一の欠点でしたが、深澤さんはこれを魅力のひとつととらえてくれました。後日、深澤さんから製品イメージをビジュアルにまとめたカタログによるプレゼンが行われました。そこにはナオロンを使った様々な製品が暮らしの中に溶け込んでいる様子が収められていて、社員一同心を奪われました。今も伝え続けているSIWAの世界観や空気感が、そこにあったんです。
こうしてSIWAが誕生したのですが、そこからが激動の日々でした。

性急な事業計画に引っ張られる
ようにしてプロジェクトを進行

プロジェクトをスタートした直後、経済産業省で地域資源を活用した新事業を支援する「地域産業資源活用事業計画」の第一号の募集がはじまったことを知り、急遽事業計画や資料を揃えて申請して、無事認定をいただきました。それが2007年だったのですが、計画書の中で「2008年6月のインテリアライフスタイル展に出展」「同年8月から販売開始」と記載したところ、自らの首を締めることに……。
会社でカバンを縫製した経験はありませんでしたが、私の姉が衣服も縫製できたので、試行錯誤しながらカバンのサンプルを作ってもらいました。私も裁断を手伝い、何度も手直しして深澤さんのチェックも通り、インテリアライフスタイル展の出品に間に合わることができました。

デザインアワード獲得で
予想外の反響を得る

インテリアライフスタイル展では想像以上の反響をいただきました。深澤さんはブースのデザインや見せ方、照明のあり方、オリジナル名刺、HP、カタログなどすべてのデザインもしてくださり、その全体的な提案も評価され、会期中にデザインアワードをいただくことができました。それが引き金にもなり受注数は予想外で、これでは姉に頼んでいては間に合わないと、急遽縫製メーカーを探すことに。ナオロンという特殊な素材で、製作コストも必要以上にかけられないことから、何十件も問い合わせては断られ……しかし最後には、快く引き受けていただけるメーカーと巡り会い、どうにか無事に販売をはじめることができました。

現地で海外実務関係者からの
助言を受け成長していく

SIWAは、設立当初から海外進出を考えていました。国内需要だけで地場産業を考える時代ではないという想いと、海外進出で企業としてステップアップを図れるという思惑があったからです。
先の事業計画書でも、「2009年1月にパリのメゾン・エ・オブジェに出展する」と記載していました。ジェトロを通じての申し込みが通り、それからほぼ毎年出展を実施。モノの良さは多くの方が認めてくれたのですが、こちらはド素人で、最初の3年くらいはインボイスの問題や業務的な海外実務の課題が常にありましたね。「発注書やプライスリストには細かい取引条件を書いておくべき」「配送コストは明確に」などなど、「もっとこうしたほうがいいよ」とたくさんのアドバイスをバイヤーさんや周りのブースの方々からもらえたのが、本当にありがたかったです。
海外展示会に出展されている他国の方々は貿易をすることを前提に製品を開発していますし、さまざまな展示会に年間数回出展している方も多く、こちらも図々しいくらいに質問して勉強させてもらいました。
バイヤーは買いたいと思っても、条件がしっかりしていないと購入するのは不安なもの。製品の良さを認めていただき、興味を持ってくださったからこそ、アドバイスをくださっていたのかなとも思います。

これまでに23カ国に展開
各国との直接取引を拡大

SIWAはこれまで23カ国で販売してきました。代理店契約をした国もありますが、いまの傾向としてはなるべく直接取引にして販路を拡大させています。代理店は現地の動向をリアルテイムに把握し、ブランド価値を高めるための適切な販売活動を行ってくるのだと思いますが、こちらと販売戦略に相違が生まれるケースが多々あったからです。本当は、各国の情報分析を行える海外営業担当を直接雇用したいところですが、まだそこまで着手できていないのが実情です。

円建てによる先入金を徹底し
海外取引でのリスクを最小化

海外に進出したからといって、事業に大きな痛手を被ったことはありません。
一度だけ、オーストラリアのファッションブランドと大きなミスをしたことがありました。バッグを別注したいというオーダーが入り、入金前に製造したのですが、高額で買えないと後から言われてしまい、どうしても購入していただけず、一部処分することになってしまいました。
それもあって、今では必ず先入金、それも強気の円建てで決済してもらうようにしています。円建ては嫌がられることが多いのですが、なるべくリスクは追わないようにしています。

モノの良さよりと同時に
貿易実務の整備が重要

モノが良くても、発注を受ける体制が整っていなければ海外進出は果たせません。重要性でいえば、むしろ後者が7割を締めていると思います。
海外進出に漠然とした夢だけを描いていては、打ち上げ花火で終わってしまいます。貿易実務は国内出荷よりも手間もかかりますし、場合によっては利益も薄くなりがち。
海外に進出をする理由を明確にしていくことがとても大事だと思います。
私たちは、海外貿易に挑戦することが大きな学びもありますし、私たち自身の感性も磨かれ、自信にもつながると考えています。また、国内では得られない製品への印象、購買理由の違い、販売先の広がりや、コラボレーションの企画などの拡大等、新たなビジネスも広がる可能性が生まれます。
そういった部分も含め、私たちは挑戦をしています。

行政や各種団体の
サービスを有効活用する

現地での経験だけでなく、中小企業基盤整備機構が行っている無料の国際化支援アドバイスへも、1年ほど通わせていただきました。大手商社にいらっしゃったような方が指導をしてくれるのですが、利用者があまりおらず、もったいないなぁと感じていました。他にも多くの関連団体で同様のサービスを行っていますから、活用できると思います。
海外展示会で以前、海外のバイヤーから「日本の出展者はモノを売る気あるのかな」と言われたことがありました。お金をかけブースを作り出展しているのに、実務体制が整っていないところがあまりに多いからです。いいモノを作る気持ちと同時に、貿易実務も整備して望むことが海外出展の絶対条件だと思います。

展示会では雰囲気作りがものを言う

海外の展示会で注意したいのは、雰囲気づくりです。
ブースのデザインやイメージももちろん大事ですが、ブース全体の人の空気や声の掛け方、こちらを見ている人へのコンタクトの仕方などがとても重要だと考えています。
日本人はときに、顔や表情から怖い印象を与えやすく、日本人ばかりのブースは立ち寄りづらい雰囲気が出るので、たとえば通訳の人は現地の人を雇ったり、ブースに立つ人の雰囲気もどんなものが良いのか意識したりしています。
時には外から自分のブースを眺めたり、他国のブースで人気のあるところの立ち居振る舞いなどを観察して、学びとっています。

3年出展を続けることで
バイヤーの信頼を勝ち得る

海外の展示会への出展を決めたら、最低でも3年は続けて参加すると良いとよく言われます。最初はなんでだろう?と思っていたのですが、バイヤーが見ているのはモノだけでなく、メーカーとしての信頼性。3年間続けて出展すれば、それだけ資本力や意欲があるという判断材料になります。取引条件が先入金であれば、本当に商品を届けてくれるのかという相手の不安を少しでも解消しなければなりません。はじめてお会いしたバイヤーさんから、「去年も出ていたよね」と声をかけられることは多々あります。よく見ているんです。

代理店希望者には必ず
日本まで足を運んでもらう

一方、こちらがバイヤーへの信頼を読み取る情報は、あまり多くないのが実情です。そのためにも先入金でリスクを減らしますし、代理店の場合は契約する前に必ず日本の本社に足を運んでもらい、製造現場を見てもらっています。
中には、とても気前がいい儲け話を持ち出す人もします。舞い上がってしまいがちですが、どこまで本当かわかりませんから、冷静になって判断しています。

各業界の知識を備え
関係者と対等に渡り合う気概を

ブランドのプロデュースという仕事柄、多くの関係者とご一緒します。それぞれのプロの判断を尊重するわけですが、丸投げしてしまうと、予算や品質、製作工程といった部分に齟齬が生まれてトラブルになってしまいがち。
またプロジェクトを進めるにあたり、クオリティにかける意識の格差や、仕事に対しての対価の考え方など、問題もさまざまです。
外注の場合、それぞれのプロに依頼をするのですが、ある程度こちらも一定の知識を備え、対等な立場になって決断していく姿勢が大切だと実感しています。

自分たちのならではの宝を見つけ
楽しく役立てる

歴史ある産地で和紙製造に携われることに、大きな宝を与えていただけたと思っています。
幼い頃の私は忙しそうに働く両親や職人の姿を横目に「大変そうだな」と思うだけで、その価値を理解したのはSIWAを立ち上げてからでした。海外の有名ブランドと協業したとき、彼らは私たちを歴史あるメーカーとして敬意を払ってくれ、対等な立場で話をしてくれたのです。イタリアのアルマーニカーサと一緒に仕事をしたときもそうでした。
歴史は作ろうと思っても作れないもので、私たちにとって代えがたい価値です。新興ブランドであっても、なにかしら輝かしい価値は秘めているはずです。自分に与えられた恵みを再確認し、自分たちらしくそれを活かせるか、いかに楽しく役立てるかが大事だと思っています。

これからも和紙の魅力を
世界へと発信していく

SIWAは今年2018年で10週年を迎えました。和紙は世界文化遺産に登録され、世界的な注目度はさらに高まっています。京都の黒谷和紙など、今後は日本各地の和紙を活かしたプロダクトも開発していく予定です。
伝統素材が有する風合い、風格を見直し、現代の日々の暮らしになじみ永く使われ、モノと心の豊かさを感じていただける日本ならではの商品を提案していければと考えています。
なんとか10年やってきました。ビジネス的にもまだまだ。私もブランドも、次に向かうために成長していきたいと考えています。